キミもホリエモンになれる

 ライブドアのホリエモンが企業買収に買収を重ねて、行け行けドンドンだったころ、彼に対する評価はオレの友人の間でもまっぷたつに分かれていた。
 おおむね若い世代は、古い日本の既成概念を破る旗手としてホリエモンを支持していた。オレの世代を含め、中年以上の人や一般の経営者は、いつか馬脚を現すと冷ややかな眼で見ていた。
 今、彼が逮捕されて、今まで見えなかったことがいろいろ見えてくると、「なんだそんなことだったのか」と白々しく思う人もたくさん出てくるはずだ。ちょうど、手品師の演技に感激した人が、そのタネをあかされると、興ざめしてしまうように。
 彼のやったことは実に単純なことだ。今、仮にキミが300万円を持っているとする。これを元手に株式会社を設立する。会社の設立登記が終わったら、今度はほかの誰かを社長にして、別の会社を設立する。設立資金はキミの会社が貸し付ければよい。同様に、また別の誰かを社長に祭り上げて、新会社を作る。
 これを繰り返して10個くらいの会社を作ると、アラ不思議。はた目にはキミが10社の企業グループを支配するオーナーのように見えてくる。実質的な資金は300万円しかなくても、総資産3000万円の青年実業家の誕生だ。資本金が見せ金とわからないように、いくつかの会社を迂回させ、相互にカラの売掛金を立てておけば、すぐにばれることはない。
 こんなお膳立てができたら、グループ全体を間抜けなボンボンや田舎の小金持ちに1億円くらいでそっくり売り払う。なにしろ、本当は何の活動もしていないのだから、無借金の「超優良企業グループ」だ。事業内容が出版だとか知識情報産業だとかにしておけば、ラブホテルだとか産廃業者だとか世間体のよくない仕事をしている経営者が表の顔に使う目的でカネを出す。彼らは資金洗浄や裏金を経費として落とす目的だけでも会社を買うことがよくある。
 もし、こんな会社ごっこに株式の店頭公開や上場を絡ませたらどうなるか。何も知らない一般投資家の資金が流れ込むから、あっという間に総資産がふくれあがる。もう誰もキミを虚業家と呼ぶ人はいない。
 さあ、それでこの先もキミは正当に得たかのような資産を運用しながら、左うちわで暮らしていけるだろうか。答えはノウだ。単に金集めや脱税が目的で、使い捨ての道具として使った「社長」たちやその従業員が黙っているはずがない。税務署などの公的な機関にチクる人が出てくるだろう。それを防ぐには、政治権力にすり寄る以外にない。
 ヒューザーのオジャマ社長やホリエモンが政治家に近づいたのは、政治的な野心や志があったわけではない。彼らは忍び寄る司直の影を本能的に感じて、最後の後ろ盾を政治家にしようと思っただけだ。
 人間誰でも、追いつめられれば悪いこともする。しかし、自分の欲望を満たすために、ふだんから冷静かつ計画的に悪事をたくらむ人間は、それを悪いことだとすら思っていない。だから、最終的には、その人間の品性の問題になる。だいたい金貸しなんて、いつの時代だろうと、いい若い者のやることか。
 檻に入ったホリエモンたちも、自分たちが悪いことをしたと思っていないだろう。今度やるときはもっと巧妙にやろうと考えているはずだ。懲りない面々は何回もお縄を頂戴するに違いない.。

単純な手口でも、規模が大きいとみんなだまされる

(C) 2006 by Mitsuhiko Takeshita

ミッチャンのエセエッセー                        by 竹下光彦