注文の多い料理店

  最近、何人かのフリーランサーから同じような相談を受けた。
 それは、クライアントが勝手気ままに仕様変更をしたり、無駄な作業の指示を飛ばして、当初の予算をオーバーしても報酬を支払ってくれないというもの。
 この種のトラブルは、請負い仕事につきもので、われわれ自身もどれだけ泣かされたかわからない。
 一般に、受注の形式には、(1)請負(委託)契約と、(2)委任契約 がある。
 前者は、ある一定の仕事を委託して、その成果物を受け取るという約束。
 後者は、発注者の代理として何かをお任せする、つまり役務(サービス)の提供を頼むという約束。
 この2つをごっちゃにしているクライアントがゴマンとある。わかっていても、意図的にこの2つをすり替える人もいる。(1) のスタイルで契約しているのに、途中で(2) のスタイルに変えてしまったり、その逆にしたりと、ぐちゃぐちゃにしてしまうのだ。
 料理にたとえるとわかりやすい。(1) は、目的物、つまり「これこれの料理を作ってくれ」と依頼するやりかた。材料や味付けの好みについては、細かい注文があっても、それは事前に決めておくのが原則で、途中で変更することはできない。調理中の厨房に入り込んで、あれこれ指示するなどはもってのほか。
 逆に(2) は、厨房に立ち会うどころか、材料や調理器具まで提供された上で、加工の一部だけをやらされる形。つまりは料理のお手伝いということ。後始末や皿洗いだけをやらされることもある。
 どちらかだけに徹底するなら問題は少ない。しかし、以上の2つをごちゃまぜにしたらどうなるだろう。調理人はたまったものではない。調理中で、ふたもあけられないのに、味見をさせろと言ってくる。予算からいって材料が限られるのに、特別の材料を使えと要求してくる。挙げ句の果ては、くちばしをはさんだ結果として仕上がりが遅れたのに、納期が遅れたから値下げしろだの支払わないだの、言いたい放題。
 (2) の委任契約も、ひどいクライアントにかかると悲惨だ。昼夜だろうが土日だろうが関係なく、いついつまでに仕上げて持ってこいと指示する。必死になって仕上げて持っていくと、これは頼んだものとは違うと言い出す。発注者自身がしっかりしたイメージを持っていないことすらある。結果責任だけを押しつけてくる場合も少なくない。
 こうしたトラブルを防ぐ手段はただひとつ。事前にしっかり協議して、どちらのスタイルなのか、はっきりさせて文書化しておくこと。委託契約なら、目的物が約束どおりなら、必ず検収する義務を明文化しておくこと。委任契約なら、仕様変更があって余分な労力や費用が発生したら、その分も発注者が負担すること、最終仕上がり商品については委任された者は責任を負わないことを書面にしておくことだ。
 また、委任契約であっても、やたらに人を振り回しておきながらその報酬も払わないおそれのある発注先なら、制作のどの段階でも、自由に降りられることを約束しておくべきだろう。
 いずれにせよ、メチャクチャなやり方をするところは、ほとんどがまともな担当者も育たない三流どころだ。一流のクライアントは、注文も支払いも実にスマートなもの。そういうクライアントは大切にしなければいけない。
 


「文句は一流、払いは三流」の何と多いことか

ミッチャンのエセエッセー                      by 竹下光彦

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